1964 Fender Champ Amp used for Roy Book Binder's Nick Lucas Reissue Prototype

1964 Fender Champ Amp used for Roy Book Binder's Nick Lucas Reissue Prototype
1991年製のニック・ルーカス・リーシュー・プロトタイプを、ピックアップを通してプレーする時に主として使っているのが、 この1964年製のフェンダー・チャンプ・アンプだ。
あくまでも原音を忠実に再現する、ナチュラルなサウンドが魅力の、このチャンプ・アンプ。ロック史上に燦然と輝く名盤『レイラ』で、 エリック・クラプトンが使用したのが、このツウィードのチャンプだ。クラプトンをはじめとする、あまたのプレーヤーが愛用してきた、 スモールアンプの歴史的名作である。
ケンドリック・アンプの創始者で、アンプ界の権威として知られるジェラルド・ウェーバーが、ヴィンテージ・ アンプのバイブルとして名高い著書『A Desktop Reference of Hip Vintage Guitar Amps(ア・ デスクトップ・レファレンス・オブ・ヒップ・ヴィンテージ・アンプス)』の冒頭で、世に出たあらゆるアンプの中で最高の1台のひとつである、 と評価しているのが、このツウィード期のチャンプである。
私が所有するこの1964年製のチャンプ・アンプは、実用面を考慮して電源コードを延長してあるが、あとは、 内部の回路に用いられている細かなパーツ類を含め、オリジナルである。ツウィードやネットの痛みも最小で、美しい状態を保っている。
キャビネット材は、合板ではなく、パインウッドの単板。パインウッドの中でも、ポンデローサと呼ばれる材が使用されている。これを、 両手の指を絡めるように合わせる、フィンガージョイントと呼ばれる最高に強固な方法で4枚の板を繋ぎ、キャビネットを形成している。
接着剤はヴィンテージのギター同様、ボンドではなく、ニカワ。最近では、マーティンの最高級機種、オーセンティック・シリーズや、 ギブソンのトゥルー・ヴィンテージ・シリーズで、非常に手間のかかるニカワ接着を用いて話題になった。ニカワによる接着は、 繋ぎ合わす双方の面の木の導管に深く浸透し、乾いたときには完全に1枚の板のように双方を繋ぎ合わす。アンプのキャビネット材で言うと、 上下左右、4枚の板が一体となるわけだ。この強固さと、キャビネットに求められる共振性は、通常使われるタイトボンドなどには、 不可能な芸当である。ボンドは、乾いても接着面の間にボンド自体が薄く残ってしまい、材同士の共振を導けない。
アンプは回路こそが重要で、ボディは関係ない、というのは正しくない。単板のパイン材をニカワで接着する、という、 手間も費用もかかる手法が持つ意味は、実は、非常に重い。アンプとは言うまでもなく「電気機器」なのだが、同時に、 それ自体がギターのような、ウッディな「楽器」なのだ。レオ・フェンダーが、回路を徹底的に煮詰めると同時に、 キャビネットにも一切の妥協をしなかったのには、十分な理由がある。
こんな逸話がある。
クラプトンが、ヴィンテージのフェンダー・ツイン・アンプをリイシューしてほしい、 とフェンダー社のアンプ部門のカスタムショップに依頼した。カスタムショップはクラプトンの依頼を受け、ツイン・ アンプの完全復刻に取り組んだ。抵抗などのパーツ類は可能な限り、当時のものに近い物をセレクト。回路は全くヴィンテージと同一にし、 当然のことながら、電気的ロスがあるプリント基板を用いず、すべて、手作業の半田付けによるポイント・トゥ・ポイントで再現した。 クラプトンがテストをする。しかし、肝心の出音は、ヴィンテージのツイン・アンプとは似ても似つかぬ音しか出てこなかった。
苦慮したカスタムショップは、キャビネットの重要性に立ち返る。古い教会の建物に使われていた良質のパイン材を手に入れ、 これを製材して、ニカワ接着でキャビネットを作った。そして、同じ回路を入れた。クラプトンがストラトを弾く。ツイン・ アンプから出てきた音は・・・・・・・。ふくよかで、豊かな低音、クリアな倍音が宿る高音、まさにヴィンテージ・ ツインの音そのものが響き渡った。クラプトンはようやく納得した-----。
この話は実に興味深い。アンプは、キャビネット自体もギターのボディのように「鳴る」わけだ。考えてみれば、当然のことである。音は、 空気の振動で伝わる。だから、最終的な出音は、スピーカーから放たれる音だけではない。キャビネット自体も鳴る。その音を含めた音色が、 聴く人の耳に届くのだ。
さて、チャンプの話に戻る。
チャンプは、エレクトリック・ギターをオーヴァードライブさせた時のきめ細やかな歪みが随一の魅力とされる。実際、私もこのアンプで、 ヴィンテージのフェンダー・ストラトキャスターやギブソンのレス・ポール・ゴールドトップ、ES-335などのオーヴァードライブ・ サウンドを楽しんでいる。だが実は、クリーンも最高に美しい音色を奏でる。
ニック・ルーカスのプロトをプレーするようになって、チャンプの魅力を再認識した。ピエゾ・ ピックアップとAKGのマイクロフォンが拾う、ナチュラルでエアー感のあるサウンドを、チャンプは非常に自然な音で再現してくれる。 ギターからの生音より、やや大きめの音量で出力してやると、そのすばらしさがよく、理解できる。
ヴォリュームのみで、トーン調節の回路を一切持たないチャンプは、電気的なロスがなく、「何も足さない、何も引かない」音しか、 出力しない。プレーに没頭していると、アンプから出ている音であることを、いつしか忘れる。自分の正面にアンプを置いてプレーするのだが、 まるで壁に反射した音が耳に飛び込んできているだけのように錯覚する瞬間が、本当にある。ヴォリューム・ノブをゼロまで落とし込み、 電源を切る。そうすると、ギター単体の音では物足らなくなるときさえ、あるのだ。
これはチャンプ自体が奏でる音の素晴らしさが厳然としてあると同時に、フィッシュマンのピエゾ・ ピックアップとAKG社製マイクロフォンの再現力の凄さでもあると思う。むろん、原音に魅力がなければ、最終的に、 電気的な回路を通した音が魅力あるものにならないのも当然なわけで、その意味で、このニック・ルーカス自体の音の素晴らしさも再認識できた。
ギターそのものの音も、ロングスケールと深胴が引き出す出音の素晴らしさがあるが、アンプを通しても、ナチュラルなエアー感にあふれ、 魅力いっぱいだ。ロイが、このプロトをステージで愛用した理由が、最近、やっと心底分かってきた。
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